労務書類3点セット、労働条件通知書・雇用契約書・就業規則をまとめて作る手順
労務管理の基本書類を作成しよう
(2017/09/11更新)
今までひとりでやってきたけど、軌道に乗ってきたから従業員を雇おうか、と考えている起業家のあなた。人材雇用をした場合に必ず用意しなければならない書類が「労働条件通知書(又は労働契約書)」です。よく使われる「雇用契約書」と「就業規則」もまとめて作って、健全な経営管理を行っていくための準備をしましょう。
この記事の目次
労働条件通知書は“義務”、雇用契約書は“任意”
労働者を採用した場合、労働基準法では労働者に対して賃金、労働時間、その他の労働条件を明示しなければなりません。(労働基準法第15条)
そして、賃金、労働時間等の主要な労働条件については、「労働条件通知書(又は労働契約書)」や就業規則等の書面の交付によって明示することを使用者に義務づけています。
一方、皆さんがよく耳にする「雇用契約書」という任意で作成する書類もあります。厳密にはこの2つの書類は異なるものとなりますので、それぞれの違いについて説明しましょう。
「労働条件通知書(又は労働契約書)」は労働基準法で定められた事項を網羅し、使用者側が労働者に一方的に通知する形式が多く、「労働基準法」を根拠にしています。
一方、「雇用契約書」は「民法」を根拠にしており、使用者と労働者との契約になるため、労働基準法や労働契約法よりも範囲が広くなります。
「雇用契約書」は、雇用保険や社会保険の手続きに利用することも多いことから、作成している企業も多く、また「雇用契約書(兼労働条件通知書)」と兼用しているところも多く見られます。
労働条件通知書を作らないと罰金30万円
先述の通り「労働条件通知書(又は労働契約書)」は従業員を雇っている企業に義務付けられているものです。もしこれを正しく備えていなければ違法となり、30万円以下の罰金が課せられます。
「労働条件通知書(又は労働契約書)」「雇用契約書」、どちらも労働条件を明示しているものであるため、実際には重複する内容が多くあります。さらに、従業員数が10人以上になると義務付けられる「就業規則」にも共通する部分があるため、従業員を雇うようになった段階で、この3つをまとめて作成するのが、効率的かつ、管理上でも基準の統一感があり良いでしょう。
労働条件通知書・雇用契約書・就業規則をまとめて作成する手順
労働条件通知書の必要項目を網羅する
まず、「労働条件通知書(又は労働契約書)」の項目を網羅していきましょう。
(1)から(5)までは絶対的記載事項(書面通知)、(6)から口頭でも良い事項です。
(1)労働契約の期間
(2)就業の場所・従事する業務の内容
(3)始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせ
る場合は就業時転換(交替期日あるいは交替順序等)に関する事項
(4)賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項
(5)退職に関する事項(解雇の事由を含む)
(6)昇給に関する事項 ※短時間労働者は書面での明示が必要。
(7)退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、支払時期に関
する事項 ※短時間労働者は書面での明示が必要。
(8)臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項 ※短時間労働者は書面での明示が必要。
(9)労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項
(10)安全・衛生に関する事項
(11)職業訓練に関する事項
(12)災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
(13)表彰、制裁に関する事項
(14)休職に関する事項
「労働条件通知書(又は労働契約書)」はこれで完成です。
雇用契約書に必要な事項を追記
「雇用契約書」には上記(1)から(5)の絶対的記載事項と、以下の事項を追記することにします。
- 入社後、勤務先変更や転勤の有無、及び原則として会社の異動命令には従う義務が有る旨
- 実際に発生した損害に対する賠償義務※あらかじめ金額は決められません。
- 労働者が雇用保険や社会保険への加入を拒否した場合の対処方法
- 賞与、退職金、慶弔見舞金等の支給の有無
などです。
これら全てを記載すれば就業規則とほとんど同じになりますので、労働者一律に適用できる内容は就業規則として別途作成しておきましょう。
従業員10人未満なので就業規則は不要?
労働基準法第89条では「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、一定の事項について就業規則を作成し、行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出なければならない」と記されています。
従業員数10人以上で就業規則の作成が義務付けられるということは、起業して間もない10人未満の会社は作成する必要ないのでは、と考える方もいらっしゃいます。しかし、就業規則は社員とのトラブル回避にも役立ち、またほとんどの助成金申請に必要となるため、1人でも従業員を雇うときには併せて作ることをおすすめしています。
参考:社員が1人でも入れば就業規則は必要? 社労士が徹底解説します!
参考:作っただけじゃ終われない!「就業規則」作成と届出や周知の手続き
労働条件通知書と就業規則の内容、どちらが優先される?
労働条件通知書(又は労働契約書)や雇用契約書と就業規則では、就業規則の方が優先されますので、就業規則と同じ基準の場合は、「就業規則に準ずる」と簡単に記載することができます。ただ、就業規則を上回る内容の「労働条件通知書(又は労働契約書)」はそれが優先されます。
困ったときには社労士に相談を
企業の規模に関係なく、労使の問題はいつ発生してもおかしくありません。問題があってから対応するのではなく、しっかりとした事前の準備が重要です。
労務関連の問題は知らなかったでは済まされないことも多いので、少しでも不安がある場合は、労働問題の専門家である社会保険労務士に相談することをおすすめします。
(監修:真田直和社会保険労務士事務所 真田 直和)
(編集:創業手帳編集部)